眞溪研究室では,方法論を重要視し,計測工学,信号処理工学,電子回路工学,情報通信工学に基づく認知神経工学研究を行っています.
認知神経工学
視覚・言語に関する認知・行動実験を行い,脳波・脳磁界との相関,介入によって更に因果関係に辿り着こうとしています.因果関係がはっきりすれば,システム論でいうブロック線図も書け,脳は制御できる対象になります.将来的には,Brain-Machine Interface(BMI)へと応用する予定ですが,ここでのMは人間の認知・身体であり,当研究室のBMIは脳とよりよい生活とのインタフェースです.
計測工学の応用
脳機能計測には,独自に開発した脳波計測システムを利用しています.これは,低ノイズアナログ生体アンプ,同時・同期型の低ノイズA/D変換器,フレーム落ちのない視覚・聴覚刺激装置,それらを制御するPCから構成されます.電子回路設計で培ったノウハウを駆使しているため,商用電源からのノイズはスペクトルに現れません.また,刺激装置の動作クロックとA/D変換器の動作クロックは完全に同期しています.これらにより,脳波全チャネルの縦軸・横軸ともに正確な測定を実現しています.さらに,取得中のデータはオンラインで利用可能になっています.
信号処理工学の応用
測定された脳波データは,独自に開発した信号処理システムで解析します.事象関連電位における脳波エポックは,通常,時間,チャネル,エポックの独立変数となります.この中でエポックのみ並べ替え可能で系列として見なされていません.実際,時間に対しては時系列として時間フィルタ(バンドパスフィルタなど),チャネルに対してはトポグラフィとして空間フィルタ(ビームフォーマ,PCA,ICA,ラプラシアンなど)が存在しますが,エポックに対しては加算平均かその差分程度の処理しか存在しません.そこで,エポックに位相順を導入し系列として扱い,エポック列に対するエポックフィルタを適用しています.
前述の計測系・処理系に加えて,独自に開発したリアルタイムフィードバックシステムで脳波計測実験は行います.人間の外界とのコミュニケーションには必ずフィードバックがあります.しかし,多くの事象関連電位の計測実験は,人間に対し一方的に刺激を与え,その応答を記録しています.フィードバックシステムでは,被験者には今行った課題がどうだったのかフィードバックや,脳波の状態から次の刺激条件を変えるなど,動的な実験デザインを可能にしています.このことによって,事象関連電位計測のみならずBCIの実践的で効率的な開発も可能になっています.
電気電子回路の応用
人間の頭皮上に電子回路を取り付け,電気的手段によってリアルタイムに脳機能に介入し,脳機能を促進・抑制しています.この電子回路の主たる構成要素は負性抵抗であり,脳波の信号源となっている脳内電源から生じる電流を正にも負にも増幅することができます.脳を強制的に電流刺激する手法と異なり,脳のダイナミクスを変化させています.本手法は,電動アシスト自転車のように人間をアシストしているだけで,人間にやろうとしなければ何もしません.応用は様々考えられるので,特にこの研究では共同研究を拡げていきたいと思っています.
情報通信工学の応用
スペクトル拡散を用いて脳波・脳磁界計測を行っています.2状態を持つ刺激を移動体通信に用いられる符号に基づいて提示し,脳波・脳磁界データを復調します.符号には移動体通信に用いられない特徴があり,脳内の情報のバインディングを調べる上で有用です.